文化の檻。



飛ぶようにして上様を訪れよう。
すぐにでもお言葉を頂きたい。


思い馳せて秀吉が訪れれば。
二人で物語をしようと茶室に誘う。
いつになく、
信長は上機嫌だった。

一体どうしたのだろうと首を傾げるばかりに。
だが尋ねるにはあまりにも恐ろしくて。
機嫌を損ねてしまってはならないと。
機嫌が良いのは今の所順調であるからだけと。
負けじと笑顔を振りまいた。



「サル」
「はッ」
ふと呼ばれてすぐに秀吉は再度平伏した。
その後何もない。
秀吉がどうしたものか、と思い、ちらり上目遣いをする。
信長の口が開いた瞬間だった。
ふ、と吐息を洩らすように。
「・・・よう、参ったものだ。久しいな」
変わらぬ素早い動きに相変わらずの愛嬌顔。
思いもよらぬことまで起こすこのサルを信長は気に入っていた。

信長の端正な微笑みに秀吉は改めて思う。


嗚呼この方があの第六天魔王などと仇名されるお方なのか。

しばらく秀吉が惚けていると、
ぽつりと一言。
信長が呟いた。
「狭いものだな」
そして前に置かれた茶を一服。
何が狭いのか。
「茶室のことで?」
「阿呆。違うわ」
「もっ申し訳御座いませぬっ」
へぇッと頭を擦るように秀吉が平伏すると、信長は笑った。
「人の檻よ」
「檻、に御座いますか」
秀吉はちょっと首をかしげた。
理解していない様を無視して信長は視線を外へと投げる。
無論、誰も居なかった。
「自由を求め檻を破壊し抜け出ても、また別の檻がある」
「はあ」
「己の檻を支配し、檻と檻を行き来し、他の文化を己の檻に取り込めばよいものを」
ふっ
と、信長は軽蔑の意を含めた笑みを洩らした。
「みなそのような力を持ち合わせていないようだ。みな狭い」
秀吉と信長の視線が合った。
信長の鋭い瞳に怖気づいて秀吉は少し身動ぎする。
「サル。お前はどうだ」
「・・・は」
どうしたものか、
秀吉の背中や脇にひんやりとした嫌な汗が流れた。
「さ、サルめは。檻を、片っ端から受け入れとう御座います・・・」
「ほう」
面白そうに信長は口端を引き上げた。




それっきりその話は信長が満足したのか話される事はなく。
今思えば、
日本の伝統や南蛮、明の事を言っていたのではないか、と秀吉は思う。


心から畏敬した彼のお方。
彼の一族の天下。
それを強引ともいえる方法で奪った自分。
複雑な思いが秀吉の中を駆け巡る。


「檻そのものがわからぬ、狭い輩が多う御座いますな、」
上様。

天守から、暗い闇夜を照らす城下を眺めて。
秀吉は呟いた。

見上げた月は、冷たかった。












--------------------------------------
反転で呟き。
思考回路がぶっとんでる信長が好きなんです
でもなんか、不完全燃焼・・・
2008.6.21