その笑顔は温かい。



珍しく秀頼から積極的な呼び出しがあった。

女中の案内に従う。
どうやら淀君も誰も側に近寄らせずに話がしたいということで。
何かあったのだろうかと不思議に思えば。
早くとせかす秀頼の手。
何があったのかと苦笑するが、彼はせかす一方だった。

「どうしました、秀頼」
重成は再度尋ねた。
あまりにも秀頼は挙動不審でおかしかった。
頬もかすかに紅色。
秀頼は辺りを見回し、そうしてやっと正面から重成を見つめた。
そして一言。
「悩みがある」
その表情はあまりにも真剣そのもの。
重成も顔を引き締め頷いた。
「なんでしょう」
「それがな、」


先日、千姫からそっと手作りの折鶴が手渡された。
愛らしい桃色。
一番上手く出来たから、と秀頼に渡したそのしなやかな手。
幸せがこちらに来るように作ったと照れる艶やかな顔。

雛人形のように整った夫婦だった。

折鶴を受け取った秀頼はとても嬉しくて。
何かお礼に出来ないものかと悩んでいた次第だった。
「このようなことを相談できるのは、重成だけだ」
秀頼は強く言う。
そう言われてしまっては、重成も悪い気はしなかった。
「なにか、御返しがしたいのですね」
「うん」
承諾してくれたのだと秀頼は顔を綻ばせる。
「秀頼はどうしたいとお考えですか」
嬉しそうな秀頼に安心しながら、重成は尋ねた。
と、途端に嬉しそうだった彼の眉間に皺が寄る。
「・・・。わからん」

どうしたら良いのか。
何をあげれば千は喜ぶのか。
そもそも取り寄せているような場合ではない。
ではどうしたら良いのか。

こんなことが秀頼の中では繰り返されていた。
「・・・」
重成もどうしたものかと軽くため息をつく。
そこでふと、秀頼は手を打った。
「そうだ。お前はどうしているのだ」
「え」
「愛する者には何かあげたりするのだろう?」
「そ、それは・・・もちろん」
至極真面目に愛などと。
重成は照れた。
秀頼がこれ以上興味深げに聞いてくるのは避けたかったので、
何か考え付かなければと重成は集中した。
そして。
「物をあげなければよいのですっ」
良い考えだと思う気持ちと、未だ上気する気持ちとで重成の声は少し高くなる。
「日頃長い時間を共に過ごしてはおられないでしょう。ですから」
一日だけでもずっと側にいるというのはどうか。
という重成の案に秀頼は納得したらしく。
なるほど、と一つ頷く。
「それは余にとっても嬉しいな」
そういって微笑んだ秀頼の顔に、重成も顔を綻ばせた。




重成を供に。
千姫を訪れに秀頼は歩いていた。
その足取りは軽やかで。
部屋にはすぐに着いた。そして人払いをする。

「千」
「秀頼様!」
突然の訪問。
ガラリと開けられた襖を見て、
千姫は目を丸く、そして驚きながらも嬉しそうに頬を赤らめた。
「一体、どうしたのでしょうか」
つと秀頼が千姫の前に座る。
「今日はお礼をしに参った」
「お礼?」
ちらと千姫は秀頼の背後にいる重成を見やった。
「先日の折鶴のお礼に御座います」
重成が微笑むと、千姫はくすりと笑った。
「折鶴のお礼だなんてそんな、大層らしいですわ」
「余には大事なことだ」
そっと千姫の手を取ると、
「今日一日、千と、千の好きなように過ごそうと思う」
秀頼はにこり微笑んだ。
「まあ」
千姫はより一層頬を染めた。
「まことに、よろしいのでしょうか」
「男に二言は無い」
その秀頼の言葉。
重成はこっそりと笑った。
その言葉は確か又兵衛殿から教わったものではないか、と。
「では、何を致しましょう」
嬉しそうに千姫は手を叩いた。
「城中を探検しとう御座いますわ。重成と3人で」
「わかった」
「ちょ、ちょっとお待ちください」
3人でという言葉に引っかかり重成は慌てて止めた。
「お二人仲睦まじく過ごす日、ではなかったのですか」
素早い事に、早速部屋を出ようとした二人はきょとんとする。
「わたくし一人秀頼様を独占するだなんて」
「重成だから良いのだ」
「あ。青柳も誘いましょうか」
気が利かなくて申し訳ないですわ、と千姫は微笑む。
「えっ、そんな、とんでも御座いませんっ」
「照れずともよいぞ、重成」
「お可愛らしいこと」
二人がからかうように言うものだから、重成は耳を赤くし、俯いた。



結局重成も共に城中散策に出掛ける事になった。
あの雛人形のような夫婦は、
行こう行こうとまるで幼児のようにはしゃぎ。
ああ二人は本当に愛し合っているのだと、
もしかするとこのままずっと続くのではないかと、思い、
重成は自然と笑みがこぼれた。








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反転で呟き。
そしてあまり夫婦会うことは無いけれどラブラブしていれば良いです。
心で繋がってるんだよ的に(笑)
2008.6.19