響く呟き。


ざあざあと止まない雨。

今日は冷えるなと思いつつ、書類を持って廊下を進む。
主は雨でも晴れでも関係なく忙しい。

こんな気の滅入る雨の日は、仕事を放り出してしまいたいと高虎は思った。



「失礼致します」

「・・・どうぞ」
スッと静かに開ける。
秀長が筆を置き、高虎に視線を向けた。
「ふ」
秀長は突然堪えたのが噴出したように、けれども静かに笑った。
「お勤めご苦労様。大変だったろうか」
「いえ、そんな」
大変なことなど。
高虎は首をふりふり、自分を気遣う気持ちが嬉しかった。
けれど疑問に思うのは。
「そうか。・・・」
くすくすと笑う秀長の様子。
「?」
高虎は何が可笑しいのかと首をひねった。
「高虎」
「はい」
呼ばれてまっすぐに秀長を見つめた。
秀長は申し訳なさそうに、けれど肩をふるわせて
「今日は、その、一段と活発な髪をしているのだな」
羽織の袖で口元をそっと隠した。
「えっあっ、これは・・・っ」
あたふたと髪を押さえ高虎は赤面した。
そしてか細く呟いた。
「雨が酷いと、髪がはねてしまうのです・・・」
両手で覆ったその隙間から力強く髪が立っていた。
「ふふ、可愛らしい」
聞き取れないような声で秀長は呟き、やっと笑いをおさめた。

「ではまた早速ですまないのだが」
と、仕事の話を切り出した。

高虎はあまりうまく聞き取れなかった。






髪の毛を多少気にしつつも、高虎は秀長の自室を出た。
しずかに襖を閉め、数歩歩き・・・。

「はあーーーー」

盛大に息を吐きしゃがみこんだ。

そこに。
「うわ。如何致した、藤堂殿」
「桑山殿・・・」
重晴がひょっこりと姿を現した。
高虎は重晴を一瞥すると、また頭を抱えた。
「ど、動悸が」
「なんと。熱でもあるのでは?顔も赤い」
「・・・いえ、心配御無用です」
重晴が誰か呼びに、という所を高虎は制した。
そしてふらりと立ち上がると頼りなさ気に、壁に寄りかかるように歩いていった。


重晴は心配そうにしつつも、藤堂殿だからと思い、後は気にしなかった。










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反転で呟き。
他人のぴょん毛は可愛い。
2008.5.15