引き始めは優しく。


涼しいと感じていた風はもはや頬を撫でずに切り裂くようで。
冬の到来を容赦なく告げる。


「くちゅん」

その音にそれぞれ行っていた動作を止め、一斉に視線を向ける。
視線の先には、
「幸村、風邪か?まったく。薄着しておるからだ」
「女子のようなくしゃみだったな」
「可愛かったですよ?」
口々に言って来る3人を、幸村は恨めしそうに見つめた。
そこに助けが入る。
「失礼な事を言うな、勝永。全登殿も」
その咎めに勝永はむすりとし、全登は肩をすくめてみせる。
呆れながらも盛親は幸村に近づき、そっと羽織をかけた。
「盛親殿・・・」
「引き始めが肝心だから。遠慮することは無い」
その優しさに幸村はふわりと微笑んだ。
「ありがとう、御座います」
「どう致しまして」
盛親も微笑を返し、微笑ましく終わる。
はずだった。
「・・・っくしゅん!」
今度は盛大に盛親がくしゃみをした。
「おやおや」
「格好付けるからだろ」
全登が苦笑し、勝永は悪態を付く。
又兵衛はというとため息をつき立ち上がった。
そして、
「そなたまで風邪を引いてどうする・・・」
己のではなく、取り出してきた羽織を盛親にバサリとかけてやった。
「・・・。すまない」
「気にするな」
申し訳無さそうに羽織を寄せる盛親に又兵衛は苦笑で返す。
そうしていると、
本日何度目か知れぬ寒風一陣。
その容赦の無い風は彼らの身を震わせた。
「それにしても寒いな」
勝永は体を丸めるようにもぞもぞと動く。
「では風邪にも効くという飲み物を持って参りましょうか」
ぽむと手を打ち、全登は微笑んだ。
幸村はそれに不安そうな表情を向ける。
「苦い、ですか・・・?」
「いーえ。ちょっぴり、酸味が御座いますが」
「なんだ、それ。酢か?」
「それはお楽しみです」
にっこりと微笑を返し、では用意してきましょうと全登はそそくさと部屋を出た。

あの彼の事だ。と、
後に不安げな表情のみが残った。











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反転で呟き。
ただのレモネード。引き始めは優しい彼。
2008.11.9