「後藤。ちょっと良いか」
ふと治長に呼び止められ、半ば強引に彼の部屋に案内された。
表面的には何事も無く日が経ち、出丸は完成しつつある時だった。
又兵衛は茶も出されずに座らされる。
治長は襖を閉じ、開口一番。
「真田のことだが」
「・・・」
出丸を築きそこに敵方を引き入れるのではないか。
そのような話を聞いていた又兵衛は呆れたように治長に視線を向ける。
治長は心配そうに尋ねてくる。
「裏切りは、せんだろうか」
「そんなことか」
「・・・」
ため息をつかれた治長は流石にむっとした。
が、次の言葉に彼は表情をころりと一転する。
「あやつは裏切らん。儂が保障する」
「なんだと」
驚くようにして見せた治長に又兵衛はため息を重ねた。
「裏切りがどうとかほざく輩がおるから外に出たがるのだろうよ」
「出丸の事は怒っておらんのか?」
「・・・」
自嘲気味にみえる笑みで答える又兵衛に、治長は少し眉を顰めた。
「後藤、」
「考えが変わった、とだけ言っておこうか」
そうして僅かに微笑めば、治長はそれを意外そうに見つめる。
又兵衛は何だか居心地が悪くなり、
「治長。話が済んだのならもう行かせて貰うぞ」
「あ、ああ。すまんな、引き止めて」
さっさと部屋を出てしまった。
人々の感嘆のため息がそれぞれの口から漏れる。
出丸が完成していたらしい。
それに誘われるように外に出る人物が一人。
別に文句をつけるわけでもなく、ただなんとなく好奇心でその噂の出丸を見ようと又兵衛は歩いていた。
そのうちに完成されたらしい出丸は「真田丸」と呼ばれ始めたことを知る。
安易な。
と又兵衛はこっそり苦笑したものだった。
僅かに出丸が見え隠れし始めた頃。
横から声が掛けられた。
「又兵衛殿・・・」
「おお、幸村か」
「あの。有難う、御座います」
「ん?ああ・・・出丸の事か」
丁寧に頭を下げられ、又兵衛は思わず頬を掻いた。
少し照れ臭かったのだ。
「・・・」
と、
いつの間にか頭を上げた幸村が又兵衛を見つめている。
「何だ」
「出丸の事のみでは、ありませんから・・・」
「どういう事だ」
怪訝そうにする又兵衛に幸村はうすく微笑するのみであった。
そこに、
「幸村殿」
二人の後方から声が掛かる。
「これは、盛親殿」
幸村が会釈し盛親も丁寧に会釈し返した。
そして盛親は又兵衛に向き直り、同じように会釈した。
又兵衛は軽く頭を下げた。
「又兵衛殿もおられたのか」
意外そうに微笑する盛親。
「ああ。そなたも出丸を見に来たのか」
「いえ、俺は・・・」
「盛親殿。こちらへ」
盛親の言葉を遮るようにし、幸村は促すように手を広げた。
僅かな不満を感じ取ったのか。
「すまない、手勢に関することだから」
申し訳ないといった風に盛親は又兵衛に再び会釈した。
「いや、気にするな。では幸村、又の折に出丸を案内してくれんか」
「喜んで・・・」
互いに笑顔で別れる。
それを見ていた盛親は疑問には思ったが、
敢えて尋ねるまでもないだろう。
と自分の胸にしまっておくことにした。
未だ忙しなく働く幸村の手勢を横目に眺めながら二人は進む。
中にはもろ肌を出して作業する者もいた。
そんな様子を苦笑しつつ盛親は、
「貴方にも軍監が付けられるそうだ」
「そう、みたいです。邪魔、されたくないのに・・・」
やがて出丸の内部に入りながらため息混じりで言った。
「浪人は信用できぬという思いが布陣にも現れている」
「・・・」
刺々しい彼の物言いに幸村は苦笑した。
「この出丸に、俺の手勢を幾らか入れる」
「はい」
「我らの兵は信頼足る者達ばかりだ。それに幸村殿の命令も聞く様にする」
盛親は鼻高々には言わないが、自負する想いは滲み出ていた。
そこに幸村が多少気まずそうに口を挟む。
「あの、」
「何か不満が?」
「いえ、盛親殿の兵なれば・・・」
頭を振る幸村に盛親はさらに首を傾げた。
「では」
「一国の主であった盛親殿に、幸村殿と呼ばれるのは、あまり・・・」
「今は同じ身ではないか」
意外だといった風に盛親は目を見開いた。
「でも・・・」
その切実な表情に盛親は考え込むようにし、やがて。
「・・・。わかった。幸村。これで宜しいか」
幸村が微笑したのが肯定のしるしだった。
それに盛親も微笑み、
「幸村。貴方と共に戦える事、嬉しく思う」
すっと利き手を差し出した。
それに応え幸村も、
「盛親殿が加勢に来て下さって、私も、嬉しい・・・」
差し出された手を取った。
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反転で呟き。
何故か既に盛親と幸村が仲良い。
2008.12.6