夕暮れ時。
景色も人も赤く暗く染まり始めた頃。
ぽつりぽつりと影がふたつ。
時折揺らめいては伸びたり、縮んだりした。
「これからもずっと、いてくれるか」
何処に、とは敢えて言わず。
問い詰める姿勢で尋ねた。
その至極真面目顔な三成に吉継はにこりと微笑み、ゆったりと
「これから、なんてもの、わからないだろう」
切り捨てた。
この時。
三成の表情はこの上なく可笑しいものだった。
反論か己の所感か。
何かを言いたがっているのは吉継にもわかったが、それは空気を震わせるだけに終わった。
吉継は自身の両手に視線を落とす。
少し汚れた包帯がぼやけて見えた。
「こんな世だ。今日の味方は明日の敵かもしれないよ」
呆然とする三成に構わず吉継は相変わらずの調子でいた。
「しかしそれでも」
「怖がりなんだよ、俺は。傷つきたくない」
「素直に受け取れないのか、紀之介。それに、俺はお前を裏切らない」
吉継の言葉に三成は持ち直し、語気を少し強めた。
何時だったか彼の弱い部分を垣間見た時の想いがそうさせた。
しかし、
「佐吉」
諭されるように呼び掛けられた名に三成は言葉を詰まらせた。
「確実な事など、何も無いんだよ」
何を悟った風に。
三成は思ったが彼の経験から来るものなのだろうと納得する己もいた。
しかし反論の言葉は既に浮かんでいる。
「不確実だと言うのなら、それはまた己次第だと言う事になる」
吉継の視線がつと三成に向けられた。
「己次第?」
「わからないというのは、良くも悪くもなるということでもあるだろう?」
少し偉ぶった口調で三成は得意気に吉継の疑問に答えた。
けれど暫く反応も何も無く、三成が小首を傾げると、
「・・・そうか。そうだね」
やがて吉継は呟いて微笑したようだった。
柔らかくなったと確信して三成は話を戻すことにした。
「紀之介。今俺は、言葉が欲しいのだ。俺には、紀之の」
「安い言葉をか」
再び切り裂くような言葉。
先ほどの暖かな空気は一瞬にして消え失せた。
いつから吉継は自分に対し辛辣な言葉を惜し気もなく、平然と言ってのけるようになったのかと三成は心中思いながらも、それだけの仲になったのだという自負も感じていた。
めげそうになる思いは否めなかったが。
「悪いけど、安い言葉は生憎持ち合わせていないよ」
そう言って綺麗に笑う吉継を恨めしそうに三成は見つめた。
「・・・俺を苛めて楽しいか」
「少し」
あからさまに眉を歪ます三成に、吉継は小さく噴いた。
「ふ、佐吉、ごめん。・・・はは」
「笑うなっ」
「ごめんごめん」
殴りかかる真似をする三成を抑えるように手を振り。
懸命に笑いを抑え、気を取り直すように吉継は居住まいを正す。
自然と三成も彼に倣った。
改めて吉継は目の前の男を見やる。
夕暮れに染まるその姿に吉継は少し、目を細める。
目の前の男、三成も、友が夕暮れ色に染まった姿をただ凝視していた。
やがて吉継が口を開く。
「俺は佐吉の気持ちが嬉しい。全力でぶつかってくれるから、俺も全力で当たれる」
この言葉は三成にとっては意外だと受け止められたようだった。
見つめ合い、そして一呼吸置いて。
三成がゆっくりと言葉を選ぶように紡いだ。
「己の不安は己でしか拭い去れない。俺はそう思う。だから」
「行動するんだろう?」
後を継ぐように発した吉継に三成ははっきりと頷いた。
「そうだ」
「佐吉は、強い」
「どうだろうな、それは・・・」
さっと視線をはずし、三成はもごもごとする。
一点を見つめることは無く、また膝に乗せた両手も彼の心を表すかのように動いていた。
その様子に吉継は苦笑した。
こういうところは素直なのに。
吉継は密かに思ったがそれを口にしては話が面倒な事になるだろうとし、止めた。
「だが、もっと他人の言葉に耳を傾けた方が良い」
「傾けているつもりだ」
即答しつつ三成が心底面倒だという表情を露骨にあらわした。
吉継も、そういえばこの話は以前にもしたと思い出しながらも、一時的にしか助言に従わない彼のためである。そう一人胸中で頷いた。
「全然そうは見えないな」
「他人の言う事ばかりを聞くなど」
上に立つ者があってはならない。
といつもは三成の台詞が続く。
吉継はわかりきった台詞を遮った。
「ばかり、とは言っていない」
「似たような意味だろう」
「全然似てない」
後に残るのは最早童の言い合いである。
「似てる」
「違う」
「違わない」
何度似たような言い合いを繰り返してきたことか。
ここまできて吉継は盛大に息を吐いた。
言い合いは仕舞いだと三成も軽く息を吐いたが、そこに吉継の止めが入る。
「わかった。頑固だものね、うん。地道に言い続ける事にする」
「人の事が言えるか」
鼻を鳴らして三成は答えたが吉継はすぐに切り返してきた。
「少なくとも佐吉よりは」
「言ったな!お前という奴は」
怒ったように三成が拳を振り上げる。
「はは・・・」
ほぼじゃれ合いといった様子であった。
日はもう僅かに山間から光を覗かせるのみで、辺りは思うより早く紺色に染まり始めていた。
「先のことはわからない。わからないが、佐吉。お前がいるというのなら、俺もいよう」
何処に、とは敢えて言わず。
相手の襟に掴みかかっていた手をそのままに。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す三成を見つめ、吉継はにこりと微笑んだ。
宵の色に染まったその表情。
素直に三成はきれいだと思った。
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反転で呟き。
友人の話とばんぷの歌から。タイトルまんま(汗)
思った事をきちんと瞬時に言葉に表せるって、とてつもなく難しいなぁと、常々思います。
どうにかしたくて今の学科を選んだ、というのもあったりするほどに気に掛かることなんです、私には。
考えた末の言葉でもなんか違う。ということも多々あるので、そもそもは語彙力がないということか、と結論付けてしまうのですが・・・想いが届けば良い、かな。
2009.4.15