そっと御腹をさする。
このような所に子が入っているのかと淀は改めて思う。
大分大きくなった己の腹を何度まじまじと眺めたことか。
その度に大蔵卿局に笑われたものだ。
二度目だとしても、不思議でたまらなかった。
長生きしておくれ。
幼くして死んだ鶴松の代わりに。
慈しもうではないか。
天下人の嫡子として、我が子として。
「拾、拾」
そう呼ぶ声は一際美しくまた慈愛に満ちている。
淀の腕の中ではしゃぐ幼子。
幼子の伸ばす小さな手を取り、淀は微笑む。
つられて幼子も輝かしく笑った。
拾。
「かわいいこ」
無事に育っておくれ。
大坂城は天下の城。
もし戦が起こったとしても、
落城などしない。
させるものか。
こわい。こわい。
戦がこわい。
父も母も、兄も戦で死んだ。
人死にばかりの戦など・・・
戦では誰も信用出来ない。
拾だけは守らなければ。
かわいい
かわいい、我が子。
「あー」
幼子の声で淀はふと我に返った。
拾が何かに興味を示して手を前方へ指し伸ばしていた。
淀はちょっと小首を傾げ、視線をめぐらす。
そして合点した。
そこには守役を任せた、
「姫様」
甲斐がにこりと微笑んでいた。
「甲斐姫」
淀の呟きは彼女に聞こえ、彼女は照れたように笑った。
「姫、はお付けにならずとも」
「良いのじゃ」
そなたを、尊敬する気持ちじゃ。
淀は目を細めた。
少し頬を染めて甲斐はぺこりと頭を下げた。
「それで、」
淀が用向きを尋ねると甲斐はすぐに答えるた
はきとした彼女の性格を淀は好ましく思う。
「太閤殿下が、お呼びで御座います」
「そうか」
ひとつ頷き、淀は視線を落とした。
拾が少し眠たそうに目を瞬かせている。
そのまま拾を見つめながら、存外気の合った彼女の名を呼んだ。
「・・・甲斐姫」
「何で御座いましょう」
「わらわは、今、幸せじゃ」
甲斐はじっと淀を見つめる。
淀は拾を見つめていた。
やがて甲斐は薄く微笑み、
「はい」
吐く息と共にささやいた。
「拾」
幼子を甲斐に託し、割れ物を扱うようにそっと幼子を撫でた。
切に、この穏やかな時が続く事を願う。
この世の春だ。
淀は自ら襖を開け放った。
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反転で呟き。
ようやっと開けたその襖の先の景色は。
2008.8.3