重き荷をせめて。


「ぼっちゃん、」

こんなにけだるげに主君を呼ぶ者がいようか、いやいまい。
だから無視する。
何も聞こえない。
何も耳に届かない。

「ぼっちゃん」
先ほどよりはしっかりとした声。
若干苛立ちを含んでいるようだった。
何となく振り向きたくなかった。
無意識に片頬に笑みが浮かぶ。
邪悪なものではないのだと自分で自分を擁護する。


「八郎ぼっちゃん!」
明らかな怒声。
すぐ側を歩く全登に小突かれる。
ちらと横目で見やればいつもの笑顔。
少し、ほんの少し怖じ気立つ。
ああもう振り向くよ。
精一杯面倒くさそうに。
「なんじゃ、弥九郎」
「ぼっちゃん・・・」
やっと振り向いてくれた、という顔をする。
まるで想い人が己に興味を持ってくれたかの如く。
それが可笑しくて思わず笑みがこぼれた。
横にいる全登は口元に手を当て控えめに笑う。
「もう疲れたのか。早う歩け」
「そない言われてもぼっちゃん、これ・・・」
引きつった笑みを浮かべる弥九郎の背、そして両腕には数々の荷物。
もはや限界といった様子だった。
「そなたが持つと言うたのじゃ」
「や、あれは強制的、」
「小西殿。往生際が悪う御座いますなぁ」
「ぐッ・・・せやけどなぁ!」
「ああもう承知致しましたよ わいが持てばいいんでっしゃろ?!」
全登が弥九郎の真似をする。
「むぐ・・・ッ」
弥九郎がもはやぐうの音も出ないようになると、全登が楽しそうににたりと笑う。
意地の悪いところはつくづく我が父に影響されたと思う。
「全登」
弥九郎が何か言い返そうと口を開いた瞬間、それを打ち切る。
結局弥九郎は息を吐くことしか出来なかったようだった。
「弥九郎を苛めるな」
「おや、おや」
全登が先ほどとは違うように笑う。
「これは失礼致しました」
「わかればよい」
一つ頷く。
そしてまた歩き始める。
全登もそれに従った。
「え、ぼっちゃん・・・この荷物」
後ろから弱弱しい声が聞こえるが気にしない。
弥九郎ならなんだかんだいって大丈夫なのだ。
そう信じている。


「弥九郎!到着したらまた相撲を取ろうっ」
笑顔で振り返ると、多少引きつりつつも笑顔が返ってきた。
横で全登が懐かしげに目を細めた。









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反転で呟き。
相撲云々は小説から。
2008.7.28