桜花びら舞う









気分転換でもしよう。
良い天気ではないか。


そっ と襖を開けてみると、穏やかな風と共に美しき桜の花びらが舞っていた。




「きれい・・・」
視線は庭の桜へ、そしてその場にゆっくりと座る。
このままずっと、過ごしていくのも悪くは無い。
そう思っているところにバタバタと足音が聞こえてきた。

すぱんと襖を開け放つと同時。
「幸村っ」
「・・・これは、勝永殿。桜がきれいですよ」
幸村がにこりと微笑むと、勢い良く入って来た勝永もつられて微笑んだ。
「そうだな。と、いうことで、だ。皆で花見をしよう」
唐突な、という幸村にお構いなく、立ったまま話し出した。
「今声を掛けて回ってるんだ。又兵衛と盛親はもう支度してくれてる。お前も来るよな?」
「はい。楽しみです」
「・・・お前も働け。オレは全登んとこ行って来る。二人はあのでかい桜の下で支度してるから」
「わかりました」

幸村が立ち上がったのを見て、勝永はそれじゃ、と踵を返した。






酒を運びながら、不意に、ああ平和だな、幸せだな、と感じてしまう自分がいた。
何も無い自分ならば良かったのだ。
何も背負うものが無ければ。
「・・・すぐに考え込むって、やっぱ悪い癖、だよな」
ぽつりと呟く。
と、目の前に影が出来た。
「そんなに重いのか」
「うわっ」
驚いて顔を上げるとそこには又兵衛がいた。
もう桜の木の下まで来ていたのか、そう思う盛親に又兵衛は繰り返した。
「そんなに重かったか。随分ふらふらと歩くものだから心配したぞ。体力が衰えたのかと」
「まさか!・・・酒はこのぐらいで良いのか?」
どれだけふらついていたのか思わず心配にもなったが、引っ張るような話題でもないだろう。
盛親は貰ってきた酒をゴトリと置いた。
「あー、もしかすれば足りなくなるな」
幸村は大の酒好きだと聞いたから。と顎を軽くなでながら又兵衛は言った。
「そうなのか?」
あまりそうは見えないな。と酒を見つめる。
「まぁそのぐらいで良かろう」
又兵衛はにっと笑うと視線を盛親の後ろへと移して、呟いた。
「噂をすれば、というのは本当らしいな」
「幸村か?」
くるりと振り返ると、幸村がのんびり歩いてくるのが見えた。


「又兵衛殿、盛親殿・・・良い天気ですね」
「おう」
「花見日和だな」
にっこり微笑み合う。
「支度はもう、終わったのですか」
その言葉に又兵衛は苦笑しつついたずらっぽく言った。
「賢いそなたのことだ、見計らって来たのではないのか」
「おや」
ふふふ、と笑う幸村はそれを暗に肯定していた。
「意地が悪いな、貴方は」
「盛親殿まで」
そんなやり取りをしていると、おおーいと声がかかった。


「重成も用事を済ませたら来るってよ」
近づきながら勝永は言った。
「そうか」
又兵衛は頷きながら
「全登殿も忙しいのではないのか」
キリスト布教に。と心の中で付け足した。
その全登はにこにこと微笑んでいた。
「いえいえ、花見をするならば参加しないわけにもいかないでしょう。それに」
スッと両手を広げて
「デウスの教えを語るよい機会ではありませんか。このようにゆっくりとした時間の中」
「あー、とにかく座って酒飲もうぜ、酒」
語り始めた全登を抑えて勝永は皆を桜の下の敷物に座るよう促した。




ぽかぽかと丁度良い日差しの元で、花見をゆっくりと楽しむ。
風に吹かれて桜が舞い、その花びらが時折盃に舞い下りてくる。

そんな優雅なわけがなかった。

幸村は、それがただの水だと言うかのように酒を飲んでは飲み、
横に座る勝永はげらげらと顔を赤くし、笑いながら絡む。
全登は全登で酔っているのか酔っていないのか・・・デウス云々を延々と語る。
そして盛親はというと、酒には弱いのかもう丸くなって寝ている。
時折親か知らぬが名前を呟くのが聞こえた。

そんな中で冷静なのは、この又兵衛ただ一人といって良いのではなかろうか。

「・・・ふう」
軽くため息をつく。この後こやつらをどうしようか、と考える。
この大坂城に至っても、人の面倒を見てしまう。

「どうしようもないな」
そうひとりごちると、桜の花びらが散った盃を一気にあおった。



その後、重成がいそいそと駆けつけた時には、開いた口が塞がらないほどの惨状になっていた。
「・・・あの、又兵衛殿」
「おお、重成。もう用は済んだのか」
又兵衛は笑みを向けると持っていた盃を軽く持ち上げた。
はい、と返事をしつつとりあえず又兵衛の隣に正座することにした。
「そなたは酒を嗜んだかな」
「ほんの少しだけ」
「そうかそうか」
にっこりと微笑まれて、重成は少し顔を赤らめると、又兵衛に差し出された盃を受け取った。
「こうして頂くお酒は、おいしいです」
「まったくだ」

尊敬する又兵衛とゆっくりと酒をたしなむことができた。
重成にとっては至福の時であった。








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反転で呟き。
大坂お披露目。
2008.4.1