重晴受難。

今朝方に、主君宛の荷物が届いた。
しばらく前に、 兄から自分宛に荷物が届けられたらすぐに持ってきてほしい、 と言っていた主君を思い出した。
小姓にでも届けさせればよいものだったのだが、自分が届けることにした。


その包みを持ってゆっくりと廊下を進んでいく。
一国一城の主として忙しなく働くのが嫌だと言うわけではないが、
いや少し面倒な時はあるが・・・
のんびりとした時間を過ごすのは悪くない。

あれこれ考えているうちに、主君の部屋の前まで来ていた。
包みを脇に置いて、正座する。
「失礼致します。今朝方、秀吉様より荷物が届けられまして・・・」
返事が無かった。
「おられないのだろうか」
首をかしげる。
もう一度、部屋の前で声を掛けても返事が無かったので、失礼して入った。

「秀長様ー?」
きょろりと辺りを見回しても、主君はいなかった。
目の前の机にその包みを置くことにしたのだが、庭にでもいないかと顔を向けた。
すると、美しく咲いた桜が見えた。








「今思えば、何故あの時包みを置いてから秀長様を探さなかったのかと・・・」
はああ、と盛大なため息をついて、重晴は頭を抱えた。
足元には壺の破片を集めた袋が置いてあった。
「まあまあ桑山殿。過ぎた事をあれこれ悔いても、どうしようも」
宥めようとする高虎を制して、重晴はがばっと顔を上げた。
「それは!・・・それはわかっておるのだ藤堂殿。しかしな、もしあれが秀長様の大事なものであったらと思うと気が気でなく・・・」
へなりとしゃがみ込むと、重晴は再び思い返した。







ガシャン
「あ」
動く暇も無く、ただ落ちて割れてしまうのを見ていることしかできなかった。
 しまった。どうしよう。切腹かっ?!
割れてしまった物の隣に、包みを置こうとした体勢のまま固まった。
まさか机の上に壺が置いてあったとは思いもしなかった。
きょろきょろと見回し、更に机に何があるかも確かに確認もせずに置こうとした、
そんな自分を恥じた。
なんということだと動揺しながら固まっていると、部屋の入り口から声がした。
「失礼致します。・・・秀長様?」
声を聞いて、重晴はすぐにこれが主君お気に入りの藤堂高虎だとわかった。
このまま諦めて帰ってくれ。そう願いながら重晴はぎゅっと目を瞑った。
「失礼致します」
もう一度声が聞こえると、小さな音がして襖が静かに開いた。
「なにをしておられる」
ため息混じりに聞こえた声にゆっくりと振り返った。
力が緩んだのか、その時に包みは静かに机の上に置かれた。
「と、藤堂殿・・・」
「桑山殿。秀長様は?」
「いや、いないが・・・」
「そうか」
で? という顔をする高虎に、重晴は冷や汗を一筋。

そうして事の次第を高虎に話すことになった。

重晴が考え込んでいると、上から声がかかった。
「桑山殿」
「・・・なんでござろう?」
高虎の背が高いので、どうしても重晴は見上げる形になる。
「正直に秀長様に申し上げるほかございませんな。探してまいる」
そう言って踵を返そうとする高虎の袖を引っ張った。
「ま、待ってくれ藤堂殿。心の、じゅ・・準備が」
「怯えなさるな。お優しい方だろう秀長様は」
「そうだが・・・」
「なにも切腹までは、と思うが、なぁ」
「言葉を濁さんでくれっ」
泣きそうになる重晴を高虎は意地悪をするように笑った。
「しかし、秀長様にお会いしなければ、私の用事が済みません」
とにかく探しに行かないと、と重晴から袖を離れさせた。
不安そうな表情をしたが、意を決したのか、重晴は高虎の目を見た。
「壺のことは、某が、自分で言う。藤堂殿は」
「黙っておりますよ」
「そうか・・・」
ほっと安堵しかけた瞬間。
「壺がどうかしたか」
柔らかな声がした。
「秀長様」
高虎の斜め後ろから、主君秀長が見えた。
驚くように振り返った高虎。
「秀長様!何処に行っておられたのですか。今から探しに行く所でしたよ」
「それはそれは、すまなかった」
秀長はそう言って軽く頭を下げた。
「それにしても、」
と、疑問を口にしようとした秀長の言葉を遮り、重晴は勢い良く土下座した。
「真にっ申し訳御座いませぬっ!」
そのいきなりの出来事に
瞼を瞬かせて秀長は高虎を見た。
「いえ、あの・・・」
もごもごとする高虎にも首をかしげると、重晴が弱弱しく話し出した。
「実は、秀吉様よりの荷物をお届けに参った所秀長様がおられませんで・・・」
「届いたのか」
ぱぁっと明るい声を出した秀長に重晴は頭を畳に擦り付けた。
「机に置こうとしました時、そこにあった壺を落として、割ってしまいました」
破片の入った袋を前に出して、申し訳御座いませぬと再び謝った。
一瞬の沈黙が流れた。
高虎も緊張していると、秀長がふふ、と笑った。
重晴の前に行ってしゃがむと微かに重晴の肩が震えた。
その肩に手をかけ、10歳以上差のあるこの年上な家臣の顔を上げさせた。
「ああ、あの壺はよいのだ。気にするな、重晴」
「しかし」
「捨ててしまおうと思っていたものだ。すまないな」
「秀長様・・・」
にこりと微笑むと秀長は立ち上がった。
「すでに壺にはひびがはいってしまっていた。割れやすかったのだろう」
言いながら、秀長は包みの前まで歩いていった。
「その事を話したら兄が新しい物を下さると言うので、届けて頂いたのだ」
「さようでしたか」
「でしたら、この破片は処分してしまいましょうか?」
それまで黙っていた高虎が言った。
「そうだな、ありがとう」
「では桑山殿も」
「あ、ああ」
微笑む秀長に一礼して、二人は部屋を後にした。

破片を捨てに歩いていると、急に高虎が重晴の両肩を掴んだ。
「・・・ぃ」
「と、藤堂殿?!」
慌てる重晴と俯き加減な高虎の目が合った。
「・・・羨ましい」
「は」
わけがわからないといった風に重晴の声は裏返った。
「秀長様の手がこの肩に掛かり桑山殿と秀長様が見つめ合っただと?!」
早口にそう言うや否や重晴の両肩をがくがくと揺らした。

そういえばこんな人だったと青ざめながら、
重晴は酔って吐かないように耐えた。








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反転で呟き。
大和郡山お披露目。
2008.3.31