来るべき終焉の時が、そっと知らされた。
否。
予感した、と言った方が正しいのか。
どうして。
今しばらくの、身体を動かせるだけの猶予が欲しい。
声は届かなかった。
受け止めたその日から。
日常がいつもよりも綺麗に見えて。
今までも美しく思っていた夕日が殊更に美しく見えた。
許して欲しい。
残していくことを。
気がかりなのは。
一番近くの、大切な
無性に怖かった。
側に仕えていたい気持ちと側を離れてしまいたい気持ち。
大和郡山に訪れるたびに、
無性に怖かった。
「高虎」
凛と響いたその声で高虎は我に返った。
「大丈夫か」
「は、はい!」
良かったと微笑む秀長。
響いた声とは裏腹に、表情はもはや健康的とは程遠いものであった。
気を遣わせてしまったと高虎は頭を垂らした。
それに気付いてか否か。
秀長は再びゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「皆には、感謝をしても、したりない」
苦しそうに咳き込む中で秀長は猶も話そうとする。
流石に高虎は顔を上げ、にじり寄った。
「御無理をなさらないで下さい・・・っ」
「・・・」
必死な様子を読み取ってか、秀長は素直に従った。
僅かばかりの時がただ流れる。
時折、鼻を啜るようなか細い音がしたのは二人の耳に届いたかもしれなかった。
しんしんとした空間。
ふと秀長は高虎の表情を盗み見た。
「高虎。我慢を、しているのか・・・?」
「いいえ。全く」
台詞に反して声音は震えている。
高虎は懸命に抑えた。
秀長には通用しなかったが。
「・・・泣かないことは、強いことと同義ではない」
自身の膝の上で高虎が拳を握り締める。
それを目端で捉えた秀長はそっと彼の拳に手を重ねた。
じんわりとした温かさがどちらの手ともなくから伝わる。
高虎の瞳に微笑した秀長が映った。
「このようなことは・・・不謹慎、かもしれないが」
と秀長が前置きを一つ。
「私は、皆が泣いてくれて嬉しい」
高虎は皆が何を指すのか考えを巡らすまでも無かった。
それよりも視界がぼやけていくのをなんとかしたかった。
泣いてくれて嬉しい。
その言葉にどう反応を返せばよいものか、高虎にはわからない。
ただ、このお方らしい、と思えた。
「皆が、そなたが泣いてくれるから、私は笑って、良い人生だったと、言える」
「・・・」
秀長様、と動かした高虎の口は、嗚咽を洩らしただけだった。
決して嘲りではなく。
まるで子をあやすかのように秀長は苦笑する。
「私が死んだ夜にだけ、泣いておくれ」
高虎に語り掛けつつ、秀長は重ねたままの手をそっと動かし、拳を解かせる。
拳に力は入っていなかった。
「そして・・・日が昇ったら、前へ、踏み出しておくれ」
こほ、と秀長が咳をした。
返答は無い。
ただ、繋いだ手の上に、雫がぽたりと落ちた。
「秀長様」
貴方の眼差しは、今や昇りつめた太陽よりも私を照らしていた。
たとえ、もう此処にはおらずとも。
私は今でも。
朝の空を見上げ。
高虎は微笑んだ。
大和郡山は澄んだ空気に包まれていた。
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反転で呟き。
「尊厳」て考え始めると哲学じみて終わりが見えないよ・・・。
ちょっと、不完全燃焼、ですが、高虎命日と繋がってます。
2009.1.22