どちらかといえば女性向強いかもです。
当方責任負う事ありませんので、苦手な方は即退避をお願い致します。
同志から譲って貰った葡萄酒。
南蛮からのそれは実に口に合うもので。
切支丹としてはキリストと精神を通わせる神聖なものではあるが。
それはそれ、これはこれ。
一人で頷きつつ、慣れた手つきで開けられた葡萄酒はきゅぽんと静寂な空間を強調するかの如く響いた。
その艶やかな色に全登は半ば無意識に目を細める。
気に入りのそれは、大事に飲もうと大切に仕舞って置いたのだ。
ほう、と溜息をついては滑るようにそれを体内に吸収する。
何ともいえぬ至福の時を彼は全身で味わった。
そんな時だった。
ひょいと持ち上げたグラスの向こう側が揺れたのは。
「おや」
大して驚いた風も無く一声上げれば、目の前の人物と目が合う。
「盛親殿」
あなたから訪ねて来るとは。
自身の記憶が確かならば盛親は今宵幸村と飲んでいるはずだった。
全登は微笑んで空になったグラスを置く。
葡萄酒の側置かれたそれは擦り寄り過ぎて音を鳴らす。
グラスから盛親に視線を戻すと、全登は微かな違和感を覚えた。
普段一定距離を保ち続ける彼が今宵は半歩進めて来ている。
「良い香りだ」
言いながら彼はその正体を既に見極めたようだった。
「南蛮のお酒で御座いますよ」
「わけてくれ」
「・・・。どうぞ」
目が据わっている。
少量注いだグラスを手渡しつつ、酒に飲まれたか、と全登は苦笑した。
それでも葡萄酒を渡したのは普段とは異なる断定的な口調からか。
全登の苦笑した様子に不快感を示したのか盛親の表情はむっとしたものとなった。
だが頬を紅潮させた状態ではまるで、幼子が拗ねている様にしか全登には見えない。
不満を言うかどうか。
しかしながらその前に、好奇心が勝ったように盛親は葡萄酒を一気に煽った。
その様子も普段とは違うなと思い、全登がついまた苦笑を洩らす。
「・・・」
飲み干した後も何言うでもなく、無言でグラスを押し出した。
これを受け取ろうと全登が前へ身体を傾ける。
その時。
軽い音を立てて盛親の頭部が全登の肩に乗った。
急なことに全登は瞼を瞬かせ、身を反らしたが盛親が寄り掛かって来た。
重さに耐えるように全登は片手を畳に押し付ける。
更には。
全登が動かぬを良い事に、盛親が火照った肌を擦りつける様に肢体を密着させた。
己とは対照的な温度、というのが心地よかったのか、鍛え抜かれた下肢を持ち上げて完全に抱きついてきたために全登は下半身の動きを封じられた。
「・・・」
酔った相手に何をどうしたらよいものか。
自然盛親の肩に頭を埋める事になった全登は伝わらぬ程度に息を吐く。
全登の、抗議の言葉をぶつけようと開いた口は盛親の繰り言によって塞がれた。
「彼は真の意味で俺を見てはいない。また俺も真の意味で彼を見てはいない・・・きっと」
盛親の震えた息遣いを全登は耳元で感じる。
と、突然。
耳朶、そして首筋に来た痛みのようなこそばゆい感覚に一瞬全登は肩を震わせた。
「・・・酒肴では御座いませんよ」
「南蛮の酒をくれないか」
不平露に表情を歪ませる全登を再び遮るように盛親がグラスに手の甲を軽く当てた。
涼しげな音が鳴る。
「・・・」
こうなればいっそ飲ませ潰してしまおうかと、辛うじて視界に入る葡萄酒をグラスに当てながらも注ぎ、
「注ぎましたよ」
一応声を掛けた。
無気力に垂れたがっていた盛親の両腕は持ち上げられたがグラスにはとどかない。
否。
その両腕はグラスに向かおうともしない。
眉を顰めた瞬間。
その両腕は滑り込むようにして衣服の隙間に入り込む。
先まで火照った状態は変わらず。
相手と己の温度差を楽しむかのように指先は滑った。
特別硬いというわけでもないが、適度に引き締められた背筋をなぞり、骨盤をするりと撫ぜる。
両手はそのままゆるやかな軌跡をくるりくるりと描きながら腰を巡り。
胸部をなぞり始めた辺りで流石に全登は彼の腕を掴んだ。
「盛親殿、酔われているとはいえ。仏の顔も三度までというのを御存知か」
にこりともせずに言い放ったのだが。
据わった目をした今の彼には何の効果も無い。
全登はゆっくりと瞼を閉じた。
「良い薫りだ」
声が届いているのかいないのか。
頭部を押し付けた時点から接吻しているも同然だった首筋から盛親は顔を離し、瞼に口付け、改めて首筋に唇を落とした。
思わぬことに一瞬身体を震わせて。
ややあって全登が諦めの息を吐き出した。
それは酷く、長かった。
「主に捧げたこの身。残念ながらあなたには差し上げることが叶いません」
彼の頭を一度だけさらりと撫でる。
ぴくりと反応した盛親は心中を明かす様にもごもごと動いた。
「・・・己より前を歩いている存在に憧れる、と同時に嫉妬する」
一度切られた唐突な台詞。
瞬きをして全登が目の端に見た盛親は、しかし必死に眠気と戦っているようだった。
そうしながらも彼はついに目を閉じ、蚊の鳴く様に想いを吐いた。
「これまでの経験の差を、まざまざと見せつけられているようだ」
「・・・」
眠気が最高値に達したのか、盛親はほどなくして静かな寝息を立て始めた。
「あなたは無意識にも、壁に向かってしまうのでしょうかねぇ」
呟きながら全登が腰に巻かれた両腕を引き剥がしごろりと転がす。
「真の意味を理解した時、あなたはどう変わるのか。・・・変わらない、か」
頬を突いたりつねったり。
けれど全く目を覚ます様子のない彼に全登は苦笑し、親が子にするように頭を撫ぜると、布団を求めに側を離れた。
誰も居なくなった部屋で一人。
盛親はもぞりと寝返りを打つ。
「 」
呟いたその表情は幸福を浮かべていた。
彼が狼狽するのは、日が高く昇ってからだった。
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反転で呟き。
酔った人の脳内は目まぐるしく回転していると思う。
でも大抵はすぐに忘れたりどうでも良かったりしていそう
2009.3.25