空は晴れ渡り、穏やかな風が流れる。
絶好の昼寝日和であった。
「柏餅もらってきたぞ〜」
勝永がにこやかに柏餅を乗せたお盆を持ってやってきた。
その声に幸村、又兵衛、全登が振り返った。
「おや、柏餅ですか」
全登が勝永に寄っていった。
「治房のヤツがくれたんだ」
「そういえば昼には粽をくれたな」
又兵衛が顎を撫でながら、ふむ、と考えた。
すると幸村が思い出したように言った。
「端午の節句、でしょうか」
「うむ、なるほど」
「だんごのせっく?」
「・・・」
「ごめんなさい」
幸村の無言の圧力に勝永は恐縮した。
「こういった風習はキチンと行うのですねぇ」
全登は感心するように頷いた。
「それじゃ、稽古は休憩ってことで、食べようぜ」
と、盛親と重成に視線を向けた瞬間。
勝永は引くついた。
「稽古、してたんだよな」
「無論だ」
又兵衛が頷いた。
「なんであの二人だけぐったり倒れてんだよ」
「・・・」
又兵衛と幸村は顔を見合わせた。
「少し気合を入れすぎてしまったかな。なぁ幸村」
「・・・つい」
「なっなんだそれッ」
勝永は、説明をしてくれと全登を見た。
それを受け取ると全登は微笑んだ。
「まず重成殿は、何度ころげても諦めませんでしたので、ついにあのような状態になってしまいました」
「気力を使い果たしたのか」
「重成もなかなかやるようになってきた」
成長していく息子を見る目つきで、又兵衛は伏している重成を見た。
「次に盛親殿は、一度幸村殿を負かしました」
「マジでかっ」
「そして幸村殿を本気にさせてしまったようで。ちょっと殺されかけ、あのような状態になってしまいました」
「・・・」
勝永は哀れみを含んで青ざめ倒れている盛親を見つめた。
「そんな二人を某は祈りを捧げつつ眺めておりました」
「本当に眺めていただけだったな」
「そうですね・・・」
又兵衛と幸村は呆れるように全登を見ていた。
「とんでもない。神に祈りを捧げていたではないですか」
「・・・途中、笑っていました」
全登は口元に手を添えた。
「いやこれは失敬」
「他の事もちゃんとやっておくと良いのかね?」
勝永は柏餅をほお張りながら尋ねた。
「他の事?」
又兵衛が茶を啜り聞き返した。
「菖蒲とかさぁ、薬草を探してくるとか」
「・・・見つかりますか」
「う〜ん、わからなねェけどさ」
「菖蒲は邪気を避けるといいますからね。あの淀殿ならば探していそうですが」
全登は苦笑した。
「弓矢で、悪鬼を退治するのも、あります」
「それならば、キリシタンの出番でも御座いましょう。この聖なる祈りで悪魔を祓わなければなりませんね」
「悪鬼も悪魔も見えねェじゃん」
「・・・見えます」
呆れる勝永に、幸村は静かに断言した。
「大野治長という・・・」
「ぶッ」
「待て待て待て!!」
又兵衛が茶を噴出し勝永が慌てた。
幸村は眉を顰めた。
「おっお前は治長を射る気かッ」
「勝永殿。愚問です・・・」
「愚問じゃないから!かなり重要だから!」
「心の中にしまっておけ、それは」
又兵衛は口元を拭い、全登は苦笑した。
「射った後が面倒でしょうからねぇ」
「そこ問題にするか?!」
「・・・」
幸村はしばらく考えて。
納得したようだった。
「ん・・・」
重成と盛親がほぼ同時に目を覚ました。
又兵衛が気づくと、二人に近寄った。
重成は疲れが多少とれているのか、すっと起き上がった。
「又兵衛殿。私は」
「疲れすぎて倒れただけだ」
「・・・では」
「勝負の続きはまた今度としよう」
「はいっ」
重成は嬉しそうに微笑んだ。
「か、体が、軋む・・・」
その隣で盛親は亀のようにゆっくりと体を起こした。
「大丈夫か」
又兵衛がそっと支えた。
「あ、ありがとう」
「盛親殿・・・」
幸村が前に座った。
「結局負けたが、色々学ぶこともあった。御指南感謝する」
盛親は微笑んで軽く頭を下げた。
「いえ。こちらこそ・・・」
幸村も微笑んで、頭を下げた。
その後二人も柏餅を頂いた。
「端午の節句ですかぁ」
重成は、秀頼と去年も行ったことを思い出した。
「淀君ならば取り寄せていると思いますよ」
「そっか。ならちょっともらえないかな」
「・・・秀頼に尋ねて見ましょうか」
「なるほど。直接は憚られるので秀頼様を使おうというわけですね」
「良い考えです・・・重成殿」
全登がぽむ、と手を叩き、幸村が頷いた。
「えっ。そんなわけでは」
わたわたと弁論しようとする重成。
それを又兵衛が笑った。
「全登殿。あまりいじめなさるな」
「ふふ、これは失礼しました」
「治房も使えると思うがどうだろう」
盛親がふと彼を思い出した。
「ああ!幸村か又兵衛が頼めば良いんじゃないか?」
それも良いなと勝永は指を鳴らした。
「なら二人で押しかけてくるか」
「はい」
いたずらっ子の笑みで又兵衛は言った。
幸村も治房は平気なのか、微笑んだ。
「よし、じゃあオレらはヨモギとか酒でも貰ってくるか」
「そうですね」
「ああ」
全登と盛親が頷いた。
それぞれが散り、
また集まった時には、
大層賑やかな宴会と化した事は言うまでもなかった。
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反転で呟き。
柏餅もいいけど桜餅が好きです。
2008.5.5