時は寛永7年。
すでに太閤が亡くなられ、幕府を開いた大御所も亡くなっている。
関ヶ原。
大坂。
大きな戦いももはや遠い昔のようで。
高虎は苦笑した。
随分と年を重ねたものだ。
開いた目は「現在」を映さない。
この目に映るのは思い出だけ。
瞼を閉じても開いても何も変わらない。
漆黒の闇に包まれている。
闇の中でほんのりと燈火が見えた。
思わず高虎は手を伸ばす。
そこでふと違和感を感じた。
気が付けばその手は、その身体はまだまだ盛りの頃に戻っていたのだ。
そして思い出す。
嗚呼そうだ。
あの頃は戦働きが全てだった。
華々しい功名が欲しかった。
今となっては若気の至り、としか言いようがないそんな頃。
あの方に逢うまでは。
幾月も共に過ごしてわかった、あの方の戦場。
命のやり取りのない戦場。
華々しくもなんともない戦場。
されどこの戦場で勝てなければ生きてはいけない。
時には無防備にその戦場へ飛び出していくあの方を守りたかった。
その気持ちが伝わったのか。
与右衛門なら出来ると。
近江出身でもあるのだから大丈夫だと。
己自身でさえわからなかった才能を、自己概念をあの方は創り出してくれた。
守りたいという意思は行動を起こした。
やがてそれは習慣となる。
己にとって刺激的なものであった所為もあるだろう。
いつしかその習慣は世に広まり、そして己の性格を創り上げる。
結果。
創り上がった性格は人生を変えた。
燈火が近付いた気がして高虎は再び手を伸ばす。
触れればあの方の暖かさが鮮明に思い出せると、根拠も無く感じていた。
「・・・殿、」
どこからか聞こえた声。
きょろりと辺りを見回した瞬間。
燈火には触れる事叶わず、高虎は真っ逆さまに落ちた。
「殿、如何なされました」
「・・・」
返答はせず、高虎は自身の身体を労わるようにゆっくりと空気を吸う。
どうやら手を伸ばしていたようだった。
そっと布団の中に戻される。
「元則」
「はい」
「この顔は、上手く・・・笑えているだろうか」
高虎は側にいるらしい家臣に問うた。
見えなくとも分かる、彼の訝しげな雰囲気。
「・・・笑って死んでいきたい」
「何を!申されます」
ふと高虎が呟けば震えた声が返ってきた。
それに苦笑しながら、
「お前が泣いて俺が笑う。良い人生だった、ということだ」
「貴方と言う方は」
静かな怒りの混じった空気を感じる。
高虎にはそれがとても懐かしく、思わず目を細めた。
一心に仕えた、
主君の顔が見えた気がした。
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反転で呟き。
主を想う。
2008.10.5