まだ辺りは日の光も無く、暗い。
後に続くはずの味方の姿は無く、敵は迫ってきていた。
「明石掃部頭殿はどうした!」
「毛利豊前守は!」
「真田左衛門佐は!」
叫んでも物見は誰の姿も見ていないという。
又兵衛は舌打ちした。
「敵は既に迎え撃つ予定地に展開している。どうする」
己に聞いた。
このまま味方を待ってられぬ。
どうしてこんなにも後続部隊が遅いのか。
あの3人は自分を裏切り者だと疑うような事はしていない。
そう又兵衛は信じていた。
行軍にてこずっているのだろう。
けれどもやはり、待っていては事を仕損じる。
又兵衛は自分の隊のみで敵と相見えようと決断した。
あれから何刻が過ぎただろうか。
そして又兵衛はふと思った。
幕府軍に包囲され、更に次々と敵は来援してくる。
山に布陣しているためにまだ敵はばらばらと撃退できる程度だった。
この大坂城に入ろうと決めた時点で、どこかで決めていたのだ。
死に場所はこの戦であると。
もの思いにふける時間なんぞないのだが。
フッと又兵衛は笑うと、側にいた家臣が不思議そうな顔をした。
「どうか致しましたか」
「いや、なにもない」
ただ少し、前の主を思い出していた。
つい世話をして、あ奴でなく儂が褒められるのを大層嫉妬していた。
自分も父に褒められたいと洩らすのをこっそり聞いた事もあった。
父と違ったからこそあ奴は生き残っている。
冬の戦では居なかった様だが、今回は徳川秀忠の側にいるらしい。
信頼されているのだな。
「死ぬ前には、色々な事が思い出されるな」
と、緊張感無く又兵衛はまた笑った。
「そうならない者は、死にたくない者であろう」
又兵衛は周囲を取り囲む部下たちに視線をめぐらせた。
「死ぬ覚悟がない者は邪魔だ。まだ間に合う故、逃げよ」
厳しく言った。
ところがこの寄せ集めの軍隊の誰もが逃げようとしなかった。
誰もが又兵衛と共にと口々に叫んだ。
「儂といくか」
己の槍を持ち直すと、又兵衛は満足そうにした。
家臣をある程度残して山を降り、突撃することに決めた。
やがて山は完全包囲され、身動きが出来なくなった。
進退窮まった家臣を何とか自分の元へと又兵衛は駆けた。
伊達の鉄砲隊を気にも留めずに駆けた。
家臣が何か叫ぶのが聞こえた。
銃弾に胸を貫かれた時、又兵衛の喉がヒュッと鳴った。
なんとか馬を立て直しころげるように降りた。
首をくれてやるわけにはいかん。
駆け寄ってきた部下に首を隠すように手まねした。
血が溢れた。
息をするにも苦しかった。
あんなにも騒がしかった戦の音が遠のいた。
意識が無くなる寸前、
如水様に会えるか と自問した。
→3
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反転で呟き。
如水を慕う又兵衛。
2008.5.6